令和3年度中学校英語教科書は飛躍的な進化をとげている!

英語4技能指導

話題の新中学校英語教科書の展示会に行ってきました。文科省肝入りの英語教育改革を各出版社がどの程度の受け止め方で改訂してくるのだろう!?と大いに興味を持っていましたが、私の想定範囲における最上レベルのさらにその上をいっていました!驚きの進化です。

ほぼ全出版社に共通している主な特徴を説明します。中学校英語教師の皆様、来年度に備え、これを読んで、今のうちにできることを始めておきましょう!   

日本の英語教育史上、最大のターニングポイントとなるにふさわしい教科書改訂だと言えます。現在英語教育界で第1線で活躍されている英語指導の達人の先生方が総力を挙げて作成したこの教科書にはいろいろな思いと工夫が満載されています。さて、こんな進化を遂げた教科書を渡された現場の英語教師は一体どうやってこれを使えばいいのでしょうか?

「何もかも新しくなって、昔ながらのスタイルでは通用しないのかしら?」
「オールイングリッシュなど、うちの学校では到底不可能だよ!!」
「コミュニケーションに力を入れてしまうと英語力が落ちてしまうのでは?」

いろいろな心配や懸念の声が聞こえてきますね (;^_^A  

まずは、「敵を知る」ところから始めましょうよ!!

では1から順に詳細をご説明しますね。

 ※尚、以下の内容はあくまで私chiyoの個人的な見方を記述したものです。

小中連携と語彙数、履修文法の増加

小学校では今年からすでに英語科が正式な教科として始まっているため、来年から中学校に入学する子供たちはすでに600~700語を履修しています。そこで、中学校ではさらに1600~1800語の新語を加えた語を履修、つまり2200語から2500語の単語が教科書にでてくるということ。現行教科書では1200語ですからほぼ2倍!

さらに、小学校ですでに学んだ文で使われている文法については、中学校では軽く復習するだけになり、その分、新たに高校で履修している文法を繰り下げて履修することになります。具体的には現在完了進行形や仮定法(仮定法過去の基礎的なもののみ)、使役動詞などです。当然、各学年で履修する文法もそれぞれ前倒しされており、これが、教科書によって配列がまちまちなのです。1年生で、未来形や助動詞must , have to~が出てくる教科書もあります。学年の早い段階で文法を習っておいて、それを使っての表現力を高める目的がありそうです。

現在、小学校英語では、まず耳から新しい英語表現を聞き、いろんな場面での使われ方をたくさん聞いて、口慣らしをしながら自分のものにしていくという「場面シラバス」で指導が行われています。あまり文字を介さないで音声を直接脳にインプットしていくやり方です。これは幼児から小学生への児童英語教室ではごく普通の流れで、英語を英語のまま楽しく学べる効果があります。

中学校に入った途端、単語の綴りを覚えるのは必須!基本文と単語を暗記するのがまず最初だよ!と、英語がいきなり暗記科目になってしまい、一気に英語嫌いを生み出してしまう原因にもなっていますよね。

「新教科書って。単語は増えるわ、生徒は書くことできてないわ!どうせえっちゅうの!!」

という声が聞こえてきそうです。大切なのは、受容語彙発信語彙とに分けて考えること。出てきた単語はとにかく全部書けるようにする!というのでは生徒の頭がオーバーヒートしてしまいます。そこで、聞いたとき、読んだときに困らない程度に知っている受容語彙と、自分の考えや意見を話したり、書いたりするのに必要な基礎的な語彙は発信語彙として扱いを分ける必要があります。どの教科書でもいわゆる太字の語彙発信語彙になっているようです。指導者はこの扱いの違いをよく考えて学習法を生徒に伝えることをしなければ、本物の「英語嫌い」を生み出してしまう可能性が高くなりますね。ヤバいです・・・(;^_^A

新文法の導入にはできるだけ時間をかけず、形と意味を簡単に導入しておき、その後、いろいろな場面やストーリーを通して何度も登場してくる中で、自然と意味や用法を覚えていくのがベストかなと常々感じています。確かに使役動詞、仮定法、と聞くと頭を抱えたくなりますが、文脈の中でとらえることができれば、意外に生徒にはスムーズに受け入れられるようにも思います。このあたりが先生の腕の見せ所かもしれません。(文法の導入については、次の項目で詳しく触れます)

コンテクスト(文脈)を重視した文法指導

前項でご紹介した通り、小学校では新しい言語材料を耳から導入して、その場面場面に応じた表現を何度も口慣らしをしながらマスターする方式、場面シラバスを採用しています。(だから小学校なのに、I want to~とかを先に習ったりするんですね。)新教科書では、中学校でも耳から文法を導入しようという動きが多くの教科書に見られます。場面シラバスと文法シラバスとを合体させ、4コマ漫画やアニメ動画で人物の関係性や文脈などの背景情報を、耳と目で確認しながら新しい文法項目をインプットさせます。当然、導入には生徒と先生との間で英語によるQ&Aを用いながらの流れが提唱されています。

Sunshine English より
マンガを使って、人物の状況や場面設定をわかりやすく伝えています。しかもユーモアを交えて楽しく!
Sunshine English 2より

どうですか?文法といえば、形と意味を確認して、パターンプラクティスをしっかりやって書き換えや穴埋め問題をして定着!・・・的な発想とは全く違う導入方法ですよね。

だから、all Englishで授業ができるわけですよ!文法の説明を全て英語でやるなんて理解できるはずがありません。でも、この方法なら、簡単な教科書英語を使ってのやりとりだけで、生徒が自ら気づき、学ぶことができますね。人と人とのやりとりの中で話される英語を聞いたり、動画や絵で様子を見たり、自分でも話したり、読んだりしながら自然とそのルールを身に着けていきます。これぞアクティブラーニングですねえ。

もちろん、単元の終わりには、文法事項をしっかりと整理できるようにまとめのページもあります。恐らく、これまでにすでにその文法を使って聞く、話す、読む、そして書く、という作業を行っているわけですから、多くの生徒たちは文法演習をたくさんしなくてもある程度すんなりと理解できると思われます。Sunshine Englishは、特にこの傾向が顕著!教科書の流れの通りに進めていくだけで、恐らくどんな英語教師でも一定効果の得られる4技能指導ができそうです。つくづくよくできた教科書だなあと感心してしまいました。

ただし!!この段階で各文法の肝になるところをどのように復習させられるか、で、筆記テストの点数UP率が変わってくる気はします。ここは先生の力量差のあらわれるところかも (;^_^A  

can doリストの有効活用による4技能育成の過程を明示

can doリストが明示されている教科書が増えました。1年間の学習の目標がどこにあるのか?どんなことができるようになるのか?3年間の学習でどこまでできるようになるのか?それがはっきり示されています。指導者のほうでも、出口イメージをはっきりもって授業を組み立てることが必要になります。また、生徒と共有することが前提で作られていますので、節目ごとに生徒も自分の英語力を振り返り、今後の学習にフィードバックさせることができ、便利です。

例えばこれは、One World 3年生のCan do リストです。(内容のみ抜粋しました)

3年学習到達目標
聞くこと
①社会的な話題であっても,はっきりと説明されれば,要点を理解することができる。
②自分の考えと比較しながら,話し手の考えを理解することができる。
読むこと
①社会的な話題の文章を読んで,書き手がもっとも伝えたい大事な部分を理解することができる。
②物語や説明を読んで,ものごとの順序や大切な部分を理解しながら,内容を理解することができる。
話すこと
【やり取り】
①わからなかったことなどを聞き返したりしながら会話を続けることができる。
②社会的な話題であっても,準備をすれば考えたことや感じたことなどを述べ合うことができる。
【発表】
話すこと
①準備をすれば,聞き手を説得するスピーチやプレゼンテーションを行うことができる。
②さまざまな話題について,即興で自分の考えを述べることができる。
③教科書の内容について,自分で調べたことを加えるなどして,事実や感想を述べることができる。
書くこと
①理由や例をあげて,相手に説明する短い文章を書くことができる。
②構成を考えて,読み手にわかりやすいまとまりのある文章を書くことができる。
③聞いたり読んだりしたことについて,自分の考えを書くことができる。

3年間の英語の授業を受けた後には、下記のことができていなければなりません。まず、自分の身の回りのことだけでなく、ある程度社会的な話題に対応できるだけの聞く力読む力ができています。やりとりでは、わからないところを相手に聞き返しながら、主体的に話せる力があり、発表では、プレゼンや即興で意見を述べる力があります。ある程度まとまった量の文章を書く力もついています。

やば~~~い!! こんなの理想論だよ! 今のうちのクラスでそんな高度な授業はできるわけないし!!ヽ(`Д´)ノプンプン

ですよね~!!これまでと同じ感覚で、文法と教科書本文の理解だけを目指して授業していては、これらの目標は到底達成できませんよね。そうなんです。

だからこそ新しい教科書では、本文理解のあとのタスクやプロジェクトが充実しているんです。また多くの教科書で採用されているのが、リテリング(retelling)です。教科書は読んで終わりでなく、自分のことばで内容を再度発信してみることで、インプットした文法や新出語彙を使えるレベルで吸収することができるように組み立てられているのです。さらに、新教科書にはその先にも、別の話題で個人やグループでのプロジェクトがあります。まったく別の文脈での発表ややりとりがあり、記事を書いたり、さらに深い読み物に挑戦したり、とこれまでになかったほど、タスクが充実しているのです。

Sunshine English より
Sunshine English では、教科書本文に関する絵を手掛かりに、理解できた内容を英語で即興的に話す練習が、全単元に入っています。

4技能別の取り組みが特に秀逸な構成になっているのが New Crown です。4技能それぞれ全てにおいてsmall stepsを設定して、段階的に力をつけていくように教科書全体が緻密に設計されています。この設計力はすごいと感じました!教科書の構成をはっきりと把握した上で、この流れに乗せていけば、着実に4技能が身につくのではないでしょうか?

「発表」と「やりとり」の力育成のための豊富なタスク

「話す」の領域が新学習指導要領では「発表」「やりとり」の領域に分かれました。各社この「やりとり」における即興性をどう身に着けさせるかに工夫を凝らしているようです。指導者にとっても、この即興性は一朝一夕に身に着けさせることができるものではなく悩ましいところです。毎時間、5分~10分の帯活動で継続して「やりとり」の練習をすることでしか、身につかないものです。

個人的に気に入っているのは、光村出版のHere We Goです。やりとりで大切なのは、その話題。生徒がついつい夢中になって英語で話したくなるような話題を提供しないと白熱したやりとりになりません。これまでは、帯活動をしようとすると、この話題を考えることが大変でした!また、習った文法を使ったQ&Aのシートを自作して配布するなど、即興性を伸ばすための教材づくりは常に頭の痛いテーマだったのです。それが、Here We Go では、帯活動のコーナーとして教科書の巻末にまとめて用意されているのです。Q&Aの進め方もしっかり提示されていて使いやすい!シールなど利用すると、生徒が喜んで活動しそうでワクワクします。

一方、「発表」のタスクはどの教科書も凝ったものになっています。また、現行の教科書と比べてタスクやプロジェクトの量が半端ない!!「話す」の技能だけでなく、もちろん、「聞く」「書く」「読む」についても相当量のタスクが盛り込まれています。特に、「発表」するためには、正しく「書く」ことは必須ですから、語彙や文法の知識を十分に生かして原稿を書き、発音やイントネーション、態度に注意して「読む」練習をし、最後に「話す」。さらに友達の発表を「聞く」活動も含めると、まさしく4技能統合型の指導が必要になります。どの教科書も、身近な話題を楽しく取り上げ、モチベーションを上げ、原稿づくりの基本から丁寧におさえてくれるので、生徒にもとっつきやすい活動になることでしょう。

問題は、これらのタスクやプロジェクトを行う時間を十分に確保できるかどうか!?にかかっていますね。週4時間、50分授業という制限は現状と変わりません。アプローチを間違えると、増加した文法や語彙に振り回されて本文だけに時間を費やし、肝心の自己表現の活動は教科書を読んで終わりにする・・・といった悲惨なことになりかねませんね (;^_^A だからこそ、文法導入の手法の見直しや本文からタスクへのスムーズな流れなど、年度内の授業で試しておくことが大事になってくると思いますよ。

ICTやQRコードを利用した音声教材の充実

これまでデジタル教科書といえば、指導者用としてあるととても便利な教材でしたよね。でも、新教科書では、生徒用のデジタル教科書が用意されているようです。1人1台、タブレットを使ってこのデジタル教科書で学習を行う学校も出てくるのでしょうね。語学においては、音声、視覚のサポートは必須といってもいい要素です。いい時代になったものです。

また、どの教科書でもQRコードが教科書に印刷されており、家庭でもQRコードからスマホに音声をダウンロードして音読等の練習ができるようになっています。これは便利!音声なしの語学学習なんてイチゴののっていないイチゴショート(笑)と同じくらい無意味なものだと思います。ぜひ、音読やシャドーイングを宿題にし、発音のいい生徒を育成しましょう!

ネイティブの音声を頻繁に聞く機会が増えると、身近な先生の発音が気になるかもしれませんね。

どうしよー!発音自信ない! RとLの違いとか、thの発音とか、今さら矯正できないよー!(´;ω;`)ウゥゥ

いえいえ。日本人なのだから多少の日本語なまりがあるのが普通ですよ!それよりも、だからといって生徒の前で英語を話す機会を減らしてしまうことのほうが問題ですよね。先生方!どうぞ自信をもって堂々と教室で英語を使いましょうよ!その果敢な姿こそが中学生を勇気づけることになります!!

終わりに

いかがでしたか?新しい教科書のポイントをできるだけ簡潔にご紹介しました。さて、こんな進化を遂げた教科書に真っ向勝負で向かっていこうとする英語教師の皆様をwanna talkは全力で応援します

文法をいかに効率よく導入し、本文中の言語材料をインプットして、それを自己表現の道具として使えるレベルにどうやってつないでいくか?これについては、また別の項目でお伝えしたいと思います。また、夏のワークショップを実施する予定ですので、お時間と心意気のある方はぜひ、ご参加ください。別途、このサイト内でご案内いたします。

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