中学校英語での文法は今後どう扱うべきか?

英文法習得

大学入試共通テストが実施され、日本の英語教育の方向性についての論議が高まっていますね。英語文法をどうとらえてどのように指導すべきか!?多くの意見がおありのことと思います。

中学校の新教科書では、特に1年生で学習する文法が爆増!してますよね(笑)。それなのに、アクティビティも多く入れるとなると時間は足らないし、一体どうすれば?現在の多くの中学校英語教員共通の悩みですね。

今日は、私の文法に対する考え方を少しご紹介しつつ、来年にどう備えるか、考えてみたいと思います。まずは、以下の疑問について・・・

入試から文法問題はなくなる?

出ました!初の大学入試共通テスト。readingとlisteningが1:1となり、多様なそして大量の英語素材の理解を問う問題がどちらにも出題されています。文法問題はないかもしれないけど、実はListening の中に文法問題が入ってるやん!という声も出ているようです。それでも、これぞ文法問題、といえるものは概ね消えています。結論としては、速く、正確にいろいろな英語素材を読んで、聞いて、理解し適正に処理できる能力こそが問われる形式に変化したと言えるでしょう。

この傾向が、高校入試にも波及するのでしょうか?

そうなると思われます。

県立の高校入試問題ではすでにいろいろなパターンの英語情報処理問題が増加していますよね。エッセイや対話文、論説文だけでなく、表やグラフ、広告、Eメールなどがきちんと読めているか?そしてまとまった分量の英文が書けるかどうか?writingを出題している県も増えていますね。また東京都はspeakingテストを行うと既に発表されています。

【東京都】都立高校入試でスピーキングテスト導入!2022年度入試から!|東京都 受験ニュース|進研ゼミ 高校入試情報サイト (benesse.ne.jp)

実質的な実用英語のスキルを問う問題の傾向は恐らくさらに強まるものと思えます。なぜか?新教科書を見たときに、今後の日本の英語教育の方向性が見えるからです。とにかく英語の分量が半端ない!!ですよね。文法も語彙も文字数も。

これは、自分自身の英語学習でわかることですが、ある程度聞けるようになるためには、大量の生の英語に触れる必要があります。日本人向けに手加減された学習用英語素材ではなく、雑誌のインタビューや、映画、ドラマ、ニュースなど、各種多様な英語を聞きながら、耳を馴らし、語彙を増やしていくことでしか、リスニング力はつかない。

同様に読む力も大量のinputがあって初めて本物のニュースや小説が読めるようになる。私が大学生のころ、初めて英語のペーパバックにトライしたとき、こんな難しい英文、読もうという気力がわかないよお( ;∀;)と思っていました。好きでもない小説を嫌々読んでいたのですから当然といえば当然ですが。その後、超大好きなミステリーを中心に、翻訳本でなく原書が読みたいと、何とかかんとか格闘しているうちに、気づいたら辞書をほとんど使わずペーパバックが読めるようになっていました。(パトリシア・コーンウェルの検視官シリーズやハリーポッター、ロードオブザリング、ダビンチコードなどのダン・ブラウンシリーズなど)10年くらい時間はかかりましたが、すでに何十冊も読んでいたのです。ちなみにそのときTOEICを受験してみると、なんと990というスコアが!?間違いじゃないの?と思いました。過去問を数回解いただけの対策しかしてなかったので・・・。後から考えてみると、そうか!?大量のinputをしたからだわと。

自身の体験を通じていつも感じていました。「日本の義務教育の英語授業に足りないのは量だ!」

いわゆる「使える英語」をマスターさせたいのなら、こんな量の英語では全然足りない!!もっとたくさんの英語素材に耳から、目から触れないと本物の英語には歯が立たないと。

なので、今回の新教科書を見たとき、「あ!文科省がやっと本気だしてきたのね」(*^-^*)と感じた次第です。この教科書を扱うとなると、文法にこだわり過ぎると時間ばかりが過ぎていき、肝心の英語素材に触れる時間が削られてしまうよね、と。授業で文法にこだわらない指導をしてるのにテストで文法力を評価しようという流れはあり得ないよね、と。指導と評価の一体化から考えても、文法問題(文法知識だけを問うような問題)は減る方向しかない!と考えます。

コミュニケーションばかりやってると文法に弱い生徒が増える?

これ、よく見聞きします。特に高校の先生方がこのようにおっしゃっているコメント、目にします。中学校で最近はやっているコミュニケーションの授業、(ここでいう授業は、話す活動が多いという意味なのか、英語を話す活動を取り入れたゲームやパターンプラクティスが多いということなのかは不明ですが)のせいで、入学してくる学生の英語力が下がってきている!とおっしゃいます。

確かに高1でも一般動詞とbe動詞の区別がつかない生徒が多くなっているなど、深刻な事態になっている実情があるようです。文法ばかりでなく、語彙も弱くて、どうしても大学入試の模試で点数が上がらない生徒に単語集を集中してさせるとみるみる点数が上がる!のようなお話も実際ににあるようです。

でも、コミュニケーションの授業にだって、正しく話し、正しく英文を書く(つまり正しい言葉を使ってのコミュニケーション活動)ためには文法、語彙の知識は必須なのですよ。

それがおろそかになっているコミュニケーション活動では確かに意味がないかもしれません。問題はその活動の中身だと言えそうです。

コミュニケーションとは、outputがメインの活動になりますが、要は、その前のinputがしっかりなされているかどうか?新しい文法、語彙の知識をさらに自分の脳に刻み付けるための、そしてその知識を正しい引き出しにきちんと整理して収納し、必要なときにすぐに取り出せる練習をしているかどうか?にかかっています。

恐らく文法学習に時間をかければ、この引き出しに正しくしまうことはできますが、後半の必要なときに取り出して順序良く話したり、書いたりするというトレーニングをする時間がなくなってしまうのだと思います。

そもそも文法ばかりやりすぎてるから日本の学生は英語が話せない?

多くの日本人は中高大学と10年間も英語を習って、その挙句にほとんどの人は話せない。その原因は何だ!?というと、どうしてもこの話は出てきてしまいますね。

私もまさしく上記の通りの状態でした。しかも、教育学部で英語専攻だったのに( ;∀;)。で、20代半ばで一念発起、リスニングのトレーニングを1年ほどした後に、ロンドンに短期語学留学💗なんてしてみました。ロンドンの語学学校でのplacement test(クラス分けテスト)の結果、advanced class に入れられ・・・。予想通り撃沈しました。

担当の先生には、あなたのacademic levelからするとadvanced が適当よ!と言われて、どれだけ「話せないんです!!」と懇願しても下のクラスには入れてもらえなかったなあ。若いヨーロッパ系の学生はみんな言いたいことを我慢せず、よく英語を話していました。しかもなまりの強い英語です。それでも全然恥ずかしがることなく堂々と話している様子に感心しきりでした。わからないことは何でも質問!ほかの全員がわかっていたとしてもかまわず最後まで食い下がる様子には驚いたものです。

私はといえば、わからない単語が出るたび辞書をひこうとすると、先生にChiyo! Why don’t you ask me? Your teacher is here! とおこられる始末。へ???辞書ひくとおこられるって・・・(*’▽’)初めての経験でした。確かに辞書よりも生身の英語話者に聞く方が速いし、わかるまで教えてくれるわなあ。と妙に納得しました。

さらに、The dog is barking at him.の意味がクラスのだれもわからないときに、私ひとりが「bark(吠えたてる)」とわかったとき、先生は褒めてくれるどころか、So, you know the meaning of this word, “bark”!?と、首を横に振りながら逆にあきれられる、ということもありました。こんなマニアックな単語知ってるならもっとしゃべれよ!的なニュアンスでしたね、間違いなく。

日本のこれまでの英語教育には確かに文法、訳読指導への偏重があったと言わざるを得ませんよね。私自身が身をもって屈辱を味わいましたから。しかも英語大好きだったんですよ!・・・ヽ(`Д´)ノプンプン

でもだからといって、文法が不要!というわけでもないんですよね。日本人の英語話者の中には、文法なんて関係ない!とばかりに流暢にガンガンしゃべれる人もいますが、よ~く聞いているとかなり乱暴なブロークンな英語になっている人もいて、実はネイティブスピーカーからはかなり聞きにくい英語になっていることもあります。いわんやTOEICや英検などの資格試験には通用しない英語になってしまいます。

一定以上のレベルできちんと英語を話すために文法は必須。特に中学校英語の文法は絶対にはずせません。やり直し英語をする日本人も、まずは中学校教科書を再度理解しなおして、本文を100回音読しよう!などと言われています。

結局のところ、偏重する必要はないけれど、文法指導を軽視するわけにもいかない。と。

理想的な文法指導とは?

最初にはっきり申し上げます。わかりません。

いろいろな考え方があり、どのやり方がいいか、それは学者が検証しながら日本人に最適の文法指導方法が今後、提唱されていくのかもしれません。

でも、現在のところ、主に大きく分けて2つの主張があると思われます。

Aタイプ:
1つは、文法のルールを学問的、体系的に整理しながら学ばせて、いろいろな文法問題に当たらせることで定着させるやり方。この方法では、最低限の文法用語とルールを徹底的に暗記させてから実際の英文を読んだり、作ったりという流れになります。いわゆる文法に強い生徒の多くはこの方式で叩き込まれている印象があります。なので、実際にそのルールを使って話す、書くという経験よりも、このルールを適用しながらパズル的に文法問題を解くのに強い人が育つというのも特徴だと思います。

Bタイプ:
もう1つは、まずその文法が使われるような場面設定をし、人物や状況を考えさせつつ実際の英文を聞かせて、意味を類推させる。そこからルールを意識させた後に、場面を設定したやりとり、いわゆるパターンプラクティスを口頭でたくさんさせて定着させるやり方。これは今回の新課程で推奨されている指導法です。聞いたり読んだり、話したり書いたりする中で繰り返し使って、何度か間違え、そのたびに修正しながら定着していきます。多くの場合、SVって何なの?と、文法用語には詳しくないけれど、英語に対する勘が鋭い系のlearner となるようです。

その他、オリジナルツールを使った方法:
私の知る限りでも多種多様な文法指導方法があります。A,Bタイプのハイブリッドバージョンはもちろん、オリジナルのカードセットを使ってカルタゲームを楽しむうちに自然に英語の語彙や文法まで押さえてしまう魔法のようなメソッドもあるかと思えば、チャンツを使ってパターンプラクティスを繰り返しつつ、表現活動にうまく持ち込みながらしっかりとした文法知識を指導するというメソッドも。

どれが有利?どれが速い?それは指導者の腕の違いだと思うし、生徒の向き不向きもあり、一概に答えは出ません。

ただ、高校履修内容以降の文法力をしっかりと頭にいれるためにはやはり体系的な文法知識の整理が必要なのではないかと個人的には思います。(特に8品詞の定義と文型の考え方は必須ですよね)

私自身は大学を卒業するまで一度も納得できる体系的な文法の授業を受けたことはありませんでした。学生時代は、文法書を買わされ、テスト範囲が決められて、結果を出すためには難解な文法用語と格闘しながら自学するしかなかった世代です。(昔はこんな学生が最も多かったのではないでしょうかね。)大学卒業後すぐに入社した地元の大手学習塾で出会った恩師、故、渡部洋三先生に8品詞の定義から徹底的に指導を受け、目からうろこ状態を経験しました。そのことがそれ以降の自分の英語力の基礎を作ってくれたと感謝しています。怖かったんですけどねえ。渡部先生。忘れもしません。指導のために教室後方から参観頂いていた渡部先生に、中3生の自分の授業の途中、強制交代させられ、授業をのっとられたこともあります。( ;∀;)でも、英語教師としての今の私があるのは彼のおかげです。

Bタイプのいわゆるコミュニカティブな英語授業を受けてきた皆さんも、どこかで一度体系的な文法の整理を行うことで飛躍的に英語力が(テストの得点力という意味ばかりでなく、4技能のスキルとして)向上することはありそうですね。

2021年度、新教科書を使うにあたって注意するべき文法指導は?

私の懸念は中1生です。

これまで小学校英語で、文法の指導をあまり受けず、聞く、話す活動をメインに英語を楽しく学んできた新中1生。いわゆるBタイプの指導をゆる~く受けているはずです。

そこへ、中学校の先生方が張り切ってAタイプの体系的な文法学習を強要し、難しい用語を並べては文法と英単語のスペリングに特化した授業をしてしまうとどうなるでしょう?

せっかく、英語って楽しい!と思っていた新1年生が、急激に英語への興味を失い、あっという間に苦手科目にしてしまうということが起こりうるのではないでしょうか。ここのところが最も恐ろしいところです。

小中連携、という言葉が年々重みをもって語られる昨今、今年の英語の新課程ではこの連携が重要な意味をもちそうです。

特に、場面シラバスといって、小学校英語では文法をメインにするのではなく、どんな場面でどんな英語を使うのか?というTPOのしばりで教科書が構成されていましたから、急に文法シラバスとして、be動詞は・・・。一般動詞は・・・。とやってしまうと厳しいかもしれませんね。

その意味ではBタイプの選択肢しかないのではないか、とも思えます。また新1年生は、これまでの新入生と比べて、特段聞く力と話す力が優れている傾向があると予想されます。下手に文法の説明に時間を割くより、自己紹介や他己紹介と称して、be 動詞と一般動詞、1人称~3人称主語まで同時に使った発表の活動を繰り返し行いながら、徐々に文法の決まりを定着させるやり方をするべきではないかと思っています。まずは中学校英語へのソフトランディングを行っておき、少し時間が経過したところで、体系的に整理しなおす機会をとって知識を定着させる方法がベストかもしれません。

新中2、3年生にとっては、新教科書の移行で、未習事項であるにも関わらず、既習事項扱いになってしまっている文法項目をしっかりフォローしていくことが重要ですね。入試の制度も一気に変わるというより、2021年度→2022年度→2023年度と段階を経ながら新傾向問題に変わっていくかもしれません。(県によっても対応には大きく差が出るかもしれませんしね)

生徒の様子を見ながら、丁寧にフィードバックを繰り返し、生徒の気持ちに寄り添いながら進めていくしかなさそうですね。

また、個別の文法指導の方法についてはまたの機会で詳しくお話したいと思います。まずは、新教科書開始を前に心構えについてお伝えしました。長々お読みいただきありがとうございました!!

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